レースで勝つために生まれたエンジン
元々BMW M社はヨーロッパツーリングカー選手権やドイツレーシングカー選手権(ドイツツーリングカー選手権=DTMの前身)に勝つために設立された組織です。そのM社がレース必勝のために開発したのが初代M3であり、その心臓部に収められたのが初のS型エンジン「S14B23」でした。S型エンジンはレースで勝つために生まれたエンジンだったのです。
「S型」エンジンはMモデルのみに搭載
そんなサーキットの血を引くエンジンですから、搭載されるのはM社が開発する「Mモデル」のみ。BMW本社で開発される通常モデル(Mパフォーマンスを含む)にはNやMやBで始まるエンジンが搭載されています。
【M3・M4】
- 初代M3(E30)
初代M3に搭載されたのは初のS型エンジンとなるS14B23型。これはM1やM635CSiなどに搭載されたM88型 3.5L直列6気筒エンジン、いわゆるビック(シルキー)シックスから2気筒を切り取って4気筒化されたものがベースとなっています。2.3L直列4気筒で195psを発生し、ドイツレーシングカー選手権を始めとするレースシーンを席巻しました。
- 究極そしてS型最後のNA直6(E36・E46)
【伝統の直列6気筒へ S50B30型】
BMWといえばシルキーシックスと呼ばれる伝統の直6エンジンが有名です。2代目となるE36のM3に搭載されたS50B30型では、ついに伝家の宝刀、直列6気筒エンジンとなりました。各シリンダーが各々スロットルを持つ「6連独立スロットルバタフライ・コントロール」を採用し、286psを発生しました。
【100ps/LオーバーのS50B32型】
E36の後期型では3.0LのS50B30型を3.2LにボアアップしたS50B32型に発展。ついにNAでありながら排気量1Lあたりの馬力が100psを超える321psをたたき出したのです。
【8,000回転以上回る超高回転!S54B32型】
3代目のM3となるE46に搭載されたS54B32型は、6気筒のS型エンジンとしては最後のNAとなる、究極のハイパフォーマンスユニットです。そのこだわりは各所に表れており、例えば通常モデルに搭載されるM54型のシリンダーブロックがアルミ製なのに対し、S54B32型ではより強度に優れる鋳鉄製に変更されています。そして1世代前のS50B32型と同じ3.2Lでありながら、リッターあたり約107ps、343psという怒涛のパワーを「7900rpm!」というきわめて高い回転域で発生。通常このような超高回転型のエンジンは低回転域ではパワー、トルクともに細く扱いにくいものですが、このS54B32型ではダブルVANOS(無段階の可変バルブタイミング機構)を採用することにより低~中回転域でも十分なトルクを発生し、街乗りでも扱いやすい傑作エンジンでした。
- E90型/E92型(クーペ)M3ではついにV8に!
4代目となるE90型/E92型M3ではついにV型8気筒のS65B40型となります。このS65B40型は同時期のM5/M6に搭載されたF1マシン譲りのV10エンジン(S85B50A型)から2気筒分ダウンサイジングしたもの。実際90度のバンク角やボアストローク、圧縮比はS85B50A型と同じ数値となっています。ショートストローク型で最高出力の420psを8,300回転で発生!レブリミットの8,400回転まで一気に吹け上がる、マルチシリンダーエンジンらしからぬ超高回転型エンジンとなっています。
- 直6ツインパワー・ターボ
F80型M3/F82型M4のS55B30A型では直6エンジンが復活!ツインターボ化され、431psのパワーと550Nmのトルクを発生し、V8だった先代のS65B40型よりもパワー、トルクともに上回りました。そして最新のG80型M3/G82型M4に搭載されるS58B30A型ではさらにパワーアップ!コンペティションモデルでは3.0Lで510ps・650Nmという途方もないパワー、トルクを発生します。
【M5・M6・M8】
- F1の技術をフードバックしたV10
M5・M6のエンジンで最も印象に残るものといえば、E60型とE63型のS85B50A型エンジンです。当時BMWはF1に参戦しており、その技術をフィードバックして開発されたS85B50A型は5.0L V10からなんと507psを発生!4代目E39型のV8から一気に107馬力もアップしたのです。ちなみにこの507psという最高出力は、1950年代後半にデビューした幻の高級スポーツカー、「BMW507」へのオマージュという説もあります。
- 究極のパワー!最新のV8 Mツインパワー・ターボ
最新のM5コンペティションやM8に搭載されるのはBMW最強パワーを誇るS63B44B型です。V8ツインパワー・ターボが発生するパワー・トルクはなんと625ps・750Nm!!!ジェントルなスタイルのM5やM8の心臓にスーパースポーツ並みのハイパフォーマンスエンジンが搭載されているのです。S63B44B型を搭載したM5コンペティションとM8は、まさに究極の「羊の皮を被った狼」といえるでしょう。
「バイエルン発動機製造株式会社」(BMWの正式名称Bayerische Motoren Werke AGの日本語訳)の名前の通り、BMWが作るエンジンが優れているのはいうまでもありません。
ただその中でも「S型」エンジンは別格であり、高い最高出力だけにとどまらず、胸のすくような回転フィール、アドレナリンを誘発する快音など、「レース直系のエンジン」と呼ぶに相応しい圧倒的なパフォーマンスを発揮してくれます。
そんな至高の「S型」エンジン、一度体験されてみてはいかがでしょうか。
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