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ノイエ・クラッセ。
それはBMW存続の危機を救い、「駆けぬける歓び」を具現化したスポーツ・セダンというジャンルを確立した伝説のシリーズ名です。
ノイエ・クラッセが世に出ていなかったら、5シリーズや3シリーズが存在しないどころか、BMW自体が「今はなき自動車メーカー」の一つに数えられていたことでしょう。
今回はそんなノイエ・クラッセの魅力や功績を余すところなく、ご紹介してまいります。
ノイエ・クラッセの意味
ノイエ・クラッセ(Neue Klasse)はドイツ語で、英訳するとニュー・クラス(New Class)、つまり「新しいクラス」を意味します。
BMWは1961年9月に開催されたフランクフルトモーターショーで発表された全く新しいモデル、「BMW1500」を開発する際に、その新たなる方向性とビジョンを表現するためにノイエ・クラッセと呼んだのでした。
「ノイエ・クラッセ」は正式名称ではなかった⁉
ただ翌1962年にBMW1500がデビューした時点では、ノイエ・クラッセというモデル名は正式なものではありませんでした。
社内のコードネームのようなものだったのです。
しかし1963年にBMW1800、1964年にBMW1600という後継車種が発売されるにあたり、「ノイエ・クラッセ」をキャッチフレーズのように使い始めました。
こうしてノイエ・クラッセは、新時代のBMWを象徴するキーワードとなっていきます。
BMWの救世主となったノイエ・クラッセ
ノイエ・クラッセが発売される少し前から、BMWはピンチに陥っていました。その危機を救ったのがノイエ・クラッセです。
財政的に危機的状態にあったBMW
第二次世界大戦に敗北したドイツは東西に分割され、東ドイツ側にあった工場はソ連に接収、西ドイツに残ったBMWも、戦闘機やロケット開発に携わっていたという理由で3年間の操業停止処分を受けてしまいます。
そして1948年から操業を再開するのですが、BMWはここで致命的なミスを犯してしまいます。
まずは実用的なクルマからコツコツと始めればよかったのに、BWM502、503といった高級車路線に突き進んでしまったのです。
国民のほとんどが戦後の困窮に苦しむ中、そんな高級車が売れるはずがありません。
莫大な開発費がかかる高級車を売りに出すも、販売は惨敗。
BMWの財政は一気に傾き、経営は危機的状況に陥ってしまいます。
一時は最大のライバル会社であるダイムラー・ベンツに吸収合併される?とまで噂されたのです。
大型高級車と超小型車の谷間
当時のBMWのラインナップは、BWM502、503といった大型高級車か超小型車であるイセッタやその発展型であるBMW600のみという両極端なものでした。
大型高級車は全く売れず、イセッタなどの超小型車は売れても利益が少ない。
販売台数も見込め、利益も期待できる「おいしい売れ筋商品」がなかったのです。
そこに現れた救世主がノイエ・クラッセでした。
「スポーツ・セダン」という現在のBMWの立ち位置を決定づけた
程よいサイズでハンドリングが良く、スポーティーなBMW1500は大ヒット作となり、BMWには注文が殺到しました。
その後も排気量を変更した1800や1600といったバリエーションを増やしていったノイエ・クラッセですが、その功績はBMWの経営を立ち直らせ、BMWがドイツを代表する自動車メーカーに成長させただけではありません。
「駆けぬける歓び」を標榜し、世界で最もハンドリングに優れた「スポーツ・セダン」という、今日あるBMWの立ち位置を決定づけたのがノイエ・クラッセだったのです。
5シリーズも3シリーズもノイエ・クラッセの末裔
現在のBMWの屋台骨を支える主力車種、5シリーズや3シリーズ、そしてフラッグシップである7シリーズ、流麗なクーペモデルである6シリーズなど、BMWの基幹モデルのそのほとんどは「ノイエ・クラッセの末裔」ということができます。
1800・2000→5シリーズへ
1500の排気量アップバージョンである1800・2000はノイエ・クラッセの中でも最大のヒットモデルとなり、ボディやシャーシという基本構造に手を入れられることなく、1972年発売のE12型の5シリーズに発展します。
1600-2→2002→3シリーズへ
4ドアセダンだった1600はそのバリエーションとして2ドアバージョンの1600-2が発売されますが、このモデルはその後、1800ccの「1802」を経て名車「2002」シリーズに発展。
今日の3シリーズにつながっていきます。
直6エンジンを搭載した高級路線の2500・2800は7シリーズへ
1967年には高級車種をラインナップするライバルメーカー、メルセデス・ベンツに対抗するために大排気量の直6エンジンを搭載した2500・2800(E3型)を発売します。
その発展したものが、現在のフラッグシップ、7シリーズです。
2800CSは「世界一美しいクーペ」6シリーズへ
BMW2000からは、特徴的なベルトーネデザインのフロントマスクを持つ2000CSが派生します。
この2000CSに伝家の宝刀直6エンジンを搭載したのが「ビッグシックス」の元祖といわれる2800CSや3.0CSで、これらはその後、世界一美しいと称された633CSiなどに発展していくのです。
新世代のノイエ・クラッセ
BMWでは現在全くの新設計EV専用プラットフォームを採用したモデルを開発中です。
電動化戦略の第三段階にあたるこれらのモデルをBMWでは「新世代のノイエ・クラッセ」と定義。
将来の主力車種がこの中から誕生すると予想されています。