ヘッドライト進化の歴史

ガソリン自動車が誕生した1886年当時、すでに白熱電球は発明されていましたが、振動に弱かったり、クルマに搭載できるような小型の発電機がなかったこともあり、クルマのヘッドライトとして当初は「ろうそく」や「ランプ」が用いられていました。

しかしそれから130年余、ヘッドライトはLEDを用いるものから更に「レーザー」を光源にするものにまで進化しようとしています。

また機能的にもステアリングとリンクして進行方向に向きを変えて照らしたり、対向車や人、物を識別して、明るく照らしつつも、眩しさを与えないインテリジェント機能のついたものさえ装備されつつあり、その進化はとどまるところを知りません。

今回はろうそくからレーザーにまで進化した、クルマのヘッドライトの歴史を紐解いていきたいと思います。

 

原点は馬車の「ろうそく」や「ランプ」

西洋では自動車の以前に移動手段として「馬車」が存在していたため、そこで使用されていた「ろうそく」や「ランプ」がまずクルマにも使われ始めました。

ただ前方を「照らす」という働きを果たすにはその光源はあまりにも弱く、クルマがそこに存在するということを周囲に「知らせる」働きが主だったようです。

そのため一応明かりがついているとはいえ、現在のように舗装されていないでこぼこ道を夜間に走行することは非常に困難でした。

アセチレン・ランプ(1902年頃〜)

1902年ころになると、アセチレン・ランプをヘッドライトに使用したクルマが登場します。

アセチレン・ランプとは、カーバイドと水の化学反応によって発生するアセチレンガスを燃焼させて青白い光を発する仕組みで、それまでのランプとは比較にならないほど明るいものでした。

またこの頃になるとレンズや反射鏡といった光学技術も進歩していたため、ヘッドライトとして十分な光源となっていたのです。

このアセチレン・ランプのヘッドライトのおかげで、自動車はようやくまともに夜間の走行ができるようになりました。

白熱ランプ(1908年〜)

1908年頃から、ロールス・ロイスなどの超高級車に白熱ランプを使用したヘッドライトが採用され始めます。

ただ当時はまだクルマに発電機はついていなかったため(蓄電池の電力を使用していた)、高級車のみのオプション品といった扱いでした(一般的なクルマはいまだアセチレン・ランプでした)。

その後1912年、電気式スターターを備えたキャデラックが量産モデルとしては初めて白熱ランプのヘッドライトを標準装備。

1920年頃までには欧米の自動車のランプは全て電気式になります。

 

シールドビーム(1939年〜)

1939年にはアメリカで「シールドビーム」というヘッドライトが開発されます。

これはヘッドライト自体が大きな電球のような構造となっており、それまでの白熱ランプよりも明るさ、寿命の面で格段に進歩したものでした。

ハロゲンヘッドライトの誕生(1960年代〜)

1960年代になると「ハロゲンランプ」を使用したヘッドライトが誕生します。

ハロゲンランプとは、電球の中に「ハロゲンガス」を封入したものです。

これにより、電球のフィラメントに使用されていたタングステンの蒸発と、その蒸発物による黒化(昔の電球は古くなると内部にススがついて黒くなっていました)を防ぐことができるようになりました。

その結果タングステンを高温化できるようなったため、非常に明るいヘッドライトが誕生したのです。

HIDランプの登場(1996年〜)

白熱ランプ→シールドビーム→ハロゲンランプと進化してきたヘッドライトですが、「フィラメント」を高温にして光らせるという仕組みは変わっていませんでした。

そこに革新をもたらしたのが1996年に登場したHID(キセノン/ディスチャージヘッドライトとも呼ばれる)です。

HIDはフィラメントを使用せずに「放電」することによって発光します。

フィラメントを電気で高温にする必要がないため、ハロゲンランプに比べて

  • 消費電力は2/3
  • 明るさは約2倍
  • 寿命は2〜3倍

という飛躍的な性能アップを果たしたのです。

HIDはハロゲンランプとともに、現在でもヘッドライトの主流となっています。

LED(2007年〜)

ハイブリッド車やEV車の普及に伴い、急速に発展、一般化しつつあるのがLEDヘッドライトです。

というのも、LEDは消費電力が電球の約1/5、HIDと比べても1/2と圧倒的に少なく、電力消費を極力抑えたいハイブリッド車やEV車にぴったりだから。

また白熱ランプ、シールドビーム、ハロゲンランプ、HIDというこれまでのヘッドライトは全て「発光させる仕組み」が必要だったため、どうしてもある程度の大きさとなってしまい、レイアウトやデザインに制約がありました。

しかし発光させる仕組みが不要で「そのものが発光する」LEDは、基本的にどんなレイアウトでも問題なく、そのおかげでデザインの自由度が飛躍的に上がったのです。

唯一の弱点だったルーメン数(明るさの単位)も格段に向上し、今後ヘッドライトの主流となることが期待されています。

 

レーザービーム(2014年〜)

LEDに次ぐ技術として期待されているのがレーザービームです。

通常の光は四方八方に広がる性質を持っているため、ヘッドライトとして用いる場合はレンズや反射鏡といった光学技術を駆使しなければなりません。

そのため、アダプティブ・ヘッドライトやオートマティック・ハイビームのように光源の細かな制御が必要なシステムの場合、非常に複雑な構造になってしまいます。

その点レーザービームは光が拡がることなく、まっすぐに、そして遠くまで届くという性質を持っているため、細かな制御がしやすいのです。

現在はまだコストの問題があるため高級車、しかもハイビームにしか採用されていません。

しかし採用されているBMWの7シリーズや8シリーズでは、LEDのハイビームの照射距離が300m程度であるのに対し、レーザービームの照射距離は倍の600mまで伸びているとされています。

ヘッドライトで遠くまで、明るく照らすことができれば、夜間走行の安全性は飛躍的に高まります。

その意味でレーザービームを使用したヘッドライトは「究極のシステム」といえるのです。

 

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BMW Column編集部

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