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BMWといえば「駆けぬける歓び」をキャッチフレーズとし、走りにこだわる自動車メーカーとして有名です。
そのため長らく「FR(フロントエンジン・リアドライブ)」「縦置きエンジン」「直列6気筒エンジン」というエンジンレイアウトやエンジン形式を守ってきました。
しかし最近ではV6エンジンこそ開発はしないものの、1シリーズ、X1、2シリーズアクティブツアラー/グランツアラーなどの「FF(フロントエンジン・フロントドライブ)」「横置きエンジン」のBMWを開発し、販売しています。
今回はこのFFのBMWにスポットをあて、「駆けぬける歓び」を満たす走りを実現しているかどうかを検証してみたいと思います。
BMWが「FR」しか作らなかった理由
BMWは1929年に初の4輪モデル「Dixi 3/15PS」を発売して以来、RR(リアエンジン・リアドライブ)のイセッタやMR(ミッドエンジン・リアドライブ)のM1といった一部の例外を除いて基本的にFR車しか開発・販売していませんでした。
ではBMWはなぜそこまで「FR」にこだわったのでしょうか?
その理由を探るため、まずはFF車のメリットとデメリット、FR車のメリットとデメリットについて考えてみたいと思います。
FF車のメリット・デメリット
FF車最大のメリットは室内や荷室のスペースを広く取ることができる、つまり「スペース効率」が良いということです。
FRの場合はフロントに積んだエンジンの駆動力をリアに伝えるために車の中心にシャフトドライブを通す必要があります。
FR車の後席に座ると真ん中がぽっこりと盛り上がっているのはこのシャフトドライブが通っているせいです。
ところがFF車の場合はこのシャフトドライブが必要なく、また駆動系をすべてフロントにまとめることができます。
そのためFFの車は室内や荷室を広く取ることができるのです。
一方FF車のデメリットとしては「車重の前後バランスが悪くなる」ことがあげられます。
車のパーツの中で最も重量のあるエンジンと駆動系がフロントにあるため、どうしても車の前部が重くなってしまうのです。
するとまっすぐ走っているときは良いのですが、カーブにさしかかると遠心力でフロントが「外へ外へ」逃げ出そうとします。
つまりハンドルを切っても「あまり曲がらない」という現象が起きてしまいます。
これがいわゆる「アンダーステア」というもので、FF車のハンドリングを悪くする最も大きな原因です。
FR車のメリット・デメリット
FR車のメリット・デメリットは、FF車の真逆です。
フロントにエンジン、リアに駆動系を配置するFR車は前後の重量バランスが良く、特にFRのBMWは前後のバランスが50:50に近くなる「フロントミッドシップ」(フロントのエンジンをできる限り車の中心部に近くなるように「後方」に積みMRの様な理想的な前後バランスにするレイアウト)を実現しているため、ハンドリングが素直、ハンドルを切れば切っただけちゃんと曲がる、という理想的なハンドリングを実現することができます。
ただしエンジンを室内にめり込むように積み、しかもシャフトドライブをセンタートンネルに配置するためにどうしても室内や荷室は狭くなってしまうのです。
スペース効率を犠牲にしてでも「走り」にこだわりたかった
このようにFFとFRにはそれぞれメリットとデメリットがあります。
ただ「駆けぬける歓び」をキャッチフレーズとするBMWとしては、スペース効率よりもハンドリングの優れたFR方式を採用し続けたというわけです。
なぜ走りにこだわるBMWがFFを採用したのか?
ではなぜ走りにこだわるBMWがFFを採用したのでしょうか?
それにはCセグメントに属する1シリーズや2シリーズの発売が関係してきます。
Cセグメントのライバルは全てFF
Cセグメントの上、Dセグメントの3シリーズやEセグメントの5シリーズではスペース効率はあまり問題になりません。
元々のボディがある程度大きいため、FRでも室内や荷室のスペースを取ることができるからです。
しかしCセグメントの車ではそうはいきません。
現に
- VWゴルフ
- アウディA3
- メルセデス・ベンツAクラス
といったCセグメントのライバルたちは一様にFFレイアウトを採用しています。
その中で唯一1シリーズだけはFRを採用し、走りにこだわるコンパクトカーを求めるユーザーに人気を博していたのですが、スペース効率を求める時代の流れには抗えず、FFレイアウトを採用することになったというわけです。
FFにすることで実用性が大幅に向上
実際2019年に登場した、3代目となる、BMW 1シリーズではFF方式の採用により、後部座席の足元のスペースが約40mm広くなり、ラゲッジ・ルームの容量は20L 増の380L、後席を倒すと最大1,200L にまで拡大しました。
これは最大のライバルであるVWゴルフとほぼ同等です。
MINIとプラットフォームを共有することができる
もう一つの理由は「MINI」の存在です。
実はBMWはすでに2001年からMINIというFF車を生産し、大ヒットさせていました。
コンパクト系のBMWをFF化することによってMINIとプラットフォームを共通化することができ、生産の効率化を図ることができるというわけです。
FFのBMWに「駆けぬける歓び」はあるか?
FF車が構造的にアンダーステアに悩まされ、ハンドリングにクセが出やすいということはお話ししました。
ではFFのBMWに走りの楽しさはないのでしょうか?
いえ、「駆けぬける歓び」をキャッチフレーズとするBMWとして、走りに妥協することはできません。
そのためにBMWはFF車のアンダーステアを消す秘密兵器を開発したのです。
ARBでアンダーステアを消す!
その秘密兵器とはARB(タイヤスリップ・コントロール・システム)!
「ARB」とは、従来別々に行っていたエンジン制御と姿勢制御を統合したものです。
エンジン内のECU(エンジン・コントロール・ユニット)で直接スリップ状況を感知し、通常スリップ時に動作するDSC(横滑り防止装置)を経由することなく直接エンジンに信号を伝達することにより、従来の約3倍の速さで制御を行います。
結果としてフロントが「外へ外へ」膨らもうとするアンダーステアを抑制し、BMWらしい「キレの良いハンドリング」を楽しむことができるというわけです。
まとめ
世界中のほとんどの自動車メーカーがFF車を中心に開発、販売を展開する中、BMWだけは「駆けぬける歓び」を守るために頑なにFRにこだわってきました。
そんなBMWが満を持して開発したFF車が「走り」をおろそかにしているはずはありません。
「やっぱりBMWはFRじゃないと」とお考えの皆さまも、一度FFのBMWのハンドルを握ってみることをおすすめします。