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BMWを他社のクルマと見分ける際、青と白のエンブレム以上に目立つのが「キドニーグリル」。
最新の4シリーズクーペやM3・M4ではその性能を誇示するが如く大型化し、強烈な個性を放って話題となっており、クルマにくわしくない人でもこのキドニーグリルを見れば、「ああ、BMWだね」と分るほど、一般的にもお馴染みとなっているBMWのシンボルです。
そこで今回はこの「キドニーグリル」について、
- キドニーグリルの語源や意味
- キドニーグリルの語源の歴史
- キドニーグリル「レス」な異端のBMW車
といった内容をくわしくお伝えしてまいります。
キドニーグリルの語源
キドニーグリルの「キドニー」は英語で「腎臓」を意味する「kidney」が語源となっています。
初めてキドニーグリルが採用された時のデザインは縦長で、フロントの左右に二つ並んだその見た目が「腎臓」に似ていたことから「キドニーグリル」の名前が付けられたのです。
キドニーグリルの歴史
初採用は1933年発売の「303型」
キドニーグリルがBMW車に採用されたのは、BMWが本格的に4輪車を開発し始めた黎明期、1933年のことです。
その前年の1932年に初の完全自社設計・開発の「3/20 AM1」を発表したばかりのBMWは、1933年に開催されたジュネーブショーで新型車BMW 303を発表。
この303型で初採用されたのが「キドニーグリル」であり、以後80年以上にわたり、現代に至るまでずっとBMWの「顔」となっていきます。
当時の自動車はエンジンルームが大きく、そのためラジエーターグリルの面積も巨大なものでした。
そこでBMWの開発チームは「ラジエーターグリルのデザインを工夫すれば目立つことができる!」と考えたのです。
当時のラジエーターグリルは四角形が一般的だったため、2分割され独特な形状をしたキドニーグリルは人々から驚きの声を持って迎え入れられました。
開発チームの狙いは大成功をおさめ、キドニーグリルはBMW車を表すアイコンとなったのです。
名車で見る様々なキドニーグリル
1933年から現在にいたるまで、一部の例外を除きBMW車にはキドニーグリルが採用されているのですが、時代やモデルの性格によって様々なデザインに変化しています。
ここではBMWの歴史に残る名車で、キドニーグリルの変遷を振り返ってみましょう。
507
1950年代のBMWを代表する名車であり、その流麗なオープン2シーターボディが後にZ8のデザインモチーフともなったのが「507」です。
スポーティーさを演出するためにボンネットは低く抑えられ、かつ力強さを表現するためにワイドボディにされていることから、キドニーグリルも薄く、横に幅広い形状となっています。
歴代のキドニーグリルでもっともエレガントなのではないでしょうか。
2002
スポーティーセダンというBMWのキャラクターを確立した名車2002、通称「マルニ」のキドニーグリルは縦長で比較的小さめ。
両サイドのライト間に広がるグリルのセンターに、小さいけれども確固たる存在感を持ったデザインとなっています。
M1
Mの元祖、「M1」のキドニーグリルは史上最小レベルであまり目立ちません。
リトラクタブルヘッドライトの下にある薄いグリルのセンターに小さく形取られたキドニーグリルは、未来的なスーパースポーツカーとしてのM1と伝統のキドニーグリルのギリギリの折衷案だったのかもしれません。
初代8シリーズ
1990年に発売された初代8シリーズは、M1譲りのリトラクタブルヘッドライトを採用したため、キドニーグリルのデザインもM1に似た小さめのデザインとなっています。
ただM1よりは若干大きめになっているため「人間の鼻の穴」に見え、リトラクタブルヘッドライトをオープンすると人間の顔に見えてくると思うのですが、皆さまはどう思われるでしょうか。
存在感を増す最新のM3・M4のキドニーグリル
最近では日本でも発売が開始された新型M3・M4の「巨大キドニーグリル」が大きな話題となりました。
最近、特に高級車の世界では、クルマを迫力のある立派なものに見せるためフロントのデザインに工夫が盛り込まれています。
その中でキドニーグリルという絶対的なデザインモチーフを持つBMWとしては、これを大型化して活かしていこうと考えるのは当然の流れ。
史上最強の新型M3・M4の力強さを、巧みに表現していると思います。
【異端児!】キドニーグリルレスのBMW
303で採用されて以来、ほぼ全てのBMWの顔を飾っているキドニーグリルですが、ごくごく一部、キドニーグリル「レス」のBMW車が存在します。
ここではそんな異端児たちをご紹介いたします。
イセッタ
冷蔵庫のドアのように、フロントが横開きのドアになっているというユニークなデザインのイセッタには、キドニーグリルが採用されていません。
そもそもこのイセッタは、イタリアのイソ社からライセンスをうけてBMWが生産していた車のため、BMWがデザインに関わってないという事情もあります。
BMW・600
「600はイセッタの後継車として発売されたモデルです。
デザインはイセッタと非常に似ており、ホイールベースを延長して4人乗りにしたイセッタという感じ。
フロントが横開きのドアとなっているのもイセッタと共通のため、この車にもキドニーグリルは採用されていません。
BMW・700
BMW・600をベースに、サイドのドアから乗り降りする「普通」の車に仕立て上げたのが700です。
経営危機に陥っていたBMWを救う大ヒット車となった「ノイエクラッセ」までのつなぎ役として重要な役割を果たした700ですが、なぜかキドニーグリルは採用されていません。
デザイナーはノイエクラッセ(1500)やトライアンフのデザインで知られるジョヴァンニ・ミケロッティですが、ノイエクラッセではキドニーグリルを採用しているのに、なぜ700では採用しなかったのかは謎に包まれています。
BMW325
異色の存在として、第2次世界大戦中にドイツ国防軍向けに生産された軍用車両、「BMW325」という車があります。
この車は戦時中の生産能力の問題から、BMWとハノマーグ社双方で生産された車であり(ハノマーグ製はHANOMAG 20B)、ロゴを始め、BMWの象徴であるキドニーグリルを採用することができなかった複雑な事情を持つモデルなのです。
時代は変わってもキドニーグリルはBMWの顔であり続ける
時代の移り変わりと共に、車のボディ形状もセダン・クーペからSUVが主流となってきました。
しかしXシリーズでもしっかりとキドニーグリルが採用されているとおり、どんなに時代が移り変わっても、BMWのアイデンティティであるキドニーグリルは、BMWの顔であり続けるのです。