伝統のボクサーエンジン&シャフトドライブ!BMWバイクの歴史

今では世界有数の高級自動車メーカーであるBMWですが、もう一つの柱としてBMW製のバイクの存在を忘れることはできません。
航空機エンジンを制作していたBMWが次に取り掛かったのはバイクですし、BMWの存続のピンチを救ったのもバイク部門でした。
今回は現在も独自の存在感を放ち続けるBMWのバイクについて、その歴史をご紹介してまいります。

BMW Motorrad(モトラッド)

BMWのバイク生産販売部門はBMW Motorradという名称です。
日本ではBMW Motorrad Japanが2輪車の輸入販売をおこなっています。

第一次世界大戦の敗戦後、航空機エンジンからオートバイエンジン生産へ

1916年に創業して以来航空機エンジンを製作していたBMWでしたが、第一次世界大戦でドイツが敗北したため、ベルサイユ条約によって軍需産業につながる航空機エンジンの製作を禁止されてしまいます。
ピンチに陥ったBMWは、バイク製造をおこなっていたバイエルン航空機製造会社(BFW)と合併。
こうしてBMWはバイクメーカーとしての道を歩みだすことになったのです。

記念すべきファーストモデル「R32」

この頃のBMWには一人の優れたチーフデザイナーが存在しました。
天才エンジニア、「マックス・フリッツ」です。
マックス・フリッツは会社からバイクの設計を命じられてからわずか「4週間」足らずで、革新的な一台のマシンを生み出します。
そのマシンは「水平対向2気筒のボクサーエンジン」を横向きに配置、ギアボックスはエンジンに直結され、縦向きに取り付けられた「クランクシャフト」を介して後輪を駆動するという画期的なもの。
1923年に発表された記念すべきBMWバイクのファーストモデル、「R32」です。
ちなみにこのボクサーエンジン+クランクシャフト駆動という基本レイアウトはR32から100年近くたった現在でも、Rシリーズなどで採用され続けています。

バイクでの成功が自動車の生産を支えた

1929年、R32の成功で資金を蓄えたBMWは、4輪車の生産ライセンスをイギリスのオースチン・セブンから受け、初の4輪モデル「Dixi 3/15PS」を送り出します。
続く1932年には完全自社設計・開発の「3/20 AM1」を発表。
こうしてBMWは自動車メーカーとしても順調に発展していくのですが、それを支えていったのはRシリーズなどのバイクでした。

世界最高速度記録を次々に更新!

ピストンを水平に配置した水平対向エンジンは重心が低く、また縦方向に配されたクランクシャフトは宇宙コマなどで知られる「ジャイロ効果」を生み出します。
この2つの効果により、BMWのRシリーズは特質した直進安定性を誇り、当時の二輪車による世界最高速度記録を次々に更新します。
マックス・フリッツに次ぐもう一人の天才エンジニア、「ルドルフ・シュライヒャー」の手によってスーパーチャージャーを装着されたマシンは1929年、当時の世界最高速度記録を10km/h上回る216km/hを記録。 その後も次々に記録を更新し続けます。
そして迎えた1937年。
108馬力を絞り出す500ccのエンジンと、エアロダイナミクスの考え方を先取りしたカウルに覆われたニューマシンにまたがるのは、1929年から数々の世界最高速度記録を出してきたレーサー、エルンスト・ヘンネです。
この時出された「279.5km/h」という当時としては信じられないような最高速度は、その後14年間、戦後の1951年まで破られることはありませんでした。
こうしてBMWのバイクの名は世界に広まり、そのラインナップも単気筒198cc〜フラットツイン748ccに拡充。
現在ではほとんどのバイクで採用されている「テレスコピックフォーク」を世界に先駆けて開発・採用したこともあり、BMWのバイクは世界最高レベルの性能を誇ったのです。

第二次世界大戦後R24で再出発

BMWの航空機部門BFWは分社化され、あの有名な「メッサーシュミット」と社名を変更し、航空機やロケット開発で目覚ましい開発力を見せつけます。
またモーターサイクルの分野でも「テレスコピックフォーク」を採用し、抜群の悪路走破性能を誇ったBMW Motorradのモーターサイクルは、軍用バイクとして大活躍します。
ただその栄光も第二次世界大戦集結まで。
第二次世界大戦の敗戦国ドイツの代表的軍需企業であったBMWは、戦争が終わると連合国側から徹底的な弾圧を受け、航空機はもちろん、自動車、バイクといった主要な製品の製作を禁じられてしまいます。
一時は自転車や農機具を生産し、やることのない工員は、鍋や釜の修理まで手掛けていたという有様でした。

そんなBMWの臥薪嘗胆の時期に終止符を打ったのが戦後最初のバイク「R24」です。
連合国側から「小排気量の単気筒エンジンなら作っても良い」と許可を得たBMW Motorradは、戦前に生産されていた単気筒エンジンモデル「R23」に改良を加え、1948年に「R24」を発売。
翌1949年には伝統の水平対向2気筒エンジンを搭載した「R51/2」が発売され、こうしてBMWのモーターサイクル部門は復興を遂げていくのです。

他のバイクメーカーとは一線を画すこだわり

BMWのバイクは「ボクサーエンジン」と「シャフトドライブ」という、他のバイクメーカーにはない非常にユニークな機構を備えています。

ボクサーエンジン

「ボクサーエンジン」とは水平対向エンジンの別名です。
水平に向かい合うように配置されたピストンが、互いに打ち合うように動作することがから「ボクサー」の名がつけられました。
その特性は「重心の低さ」と「振動の少なさ」にあります。
水平対向エンジンはピストンを平らに、並行して配置するため、V型エンジンなどに比べ、エンジンの全高を低くすることができ、またそれによりエンジンを「低重心」にすることができます。
体に比べて頭が大きい子供がよく転んでしまうことからも分かる通り、重心が高いと物体は安定しません。逆に重心が低いと物体は安定して移動することができます。
高速で移動するバイクに、低重心のボクサーエンジンは向いているのです。

また向かい合うように配置されたピストンは、互いの振動を打ち消し合います。
そのためボクサーエンジンは振動が少なく、なめらかな走行フィールを実現することができるのです。

シャフトドライブ

通常のバイクはエンジンと駆動輪をチェーンで接続する「チェーンドライブ」ですが、BMWのRシリーズは伝統的に「シャフトドライブ」を採用しています。

シャフトドライブとはFR(フロントエンジン・リアドライブ)の四輪車と同じように、エンジンの駆動力をシャフトの回転を通じて伝える仕組みです。

チェーンドライブに比べて砂埃や泥に強く、日常のメンテナンスも楽というメリットがあります。

他のメーカーが採用していないボクサーエンジンやクランクシャフトドライブを採用するのも、走りにこだわるBMWだからこそ。

そのこだわりは四輪車にも引き継がれ、他メーカーでは少なくなりつつある「直6エンジン」「FR駆動」を採用したプレミアムカーを世に送り出しています。

ライター情報

BMW Column編集部

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