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以前はハイパフォーマンスカーの代名詞だったターボチャージャーですが、現在ではハイパワーを誇る超高級車から燃費効率を向上させたい大衆車まで、幅広く搭載されています。
今回はそんな「標準装備」となりつつあるターボチャージャーの仕組みをおさらいし、一般化するまでの歴史を振り返ってみたいと思います。
ターボチャージャーの仕組み
一般的には「ターボ」と略されるターボチャージャーですが、もっと正確にいえば、「タービン式スーパーチャージャー」となります。
スーパーチャージとは「過給」という意味で、エンジン内に強制的に大量の空気を押し込むこと。
エンジンの出力を増大させるためにはたくさんの燃料を燃焼させる必要があり、そのためにはできるだけ多くの酸素が必要です。
つまり空気をどれだけ取り入れられるかが出力の大きさを決定するというわけです。
そのため高出力化をはかるには、
1. 時間あたりの燃焼回数を増やすために高回転化する
2. エンジンを大排気量化する
3. 空気を圧縮してエンジンに取り入れる空気の量を増大させる
という3つの方法が考えられます。
ターボチャージャーは3の方法を採用したもので、排気ガスの流れを利用してタービンを回し、その回転力によってコンプレッサー(圧縮機)に伝えて空気を「圧縮」するという仕組みです。
スーパーチャージャーとの違い
スーパーチャージャーは正確には「メカニカル・スーパーチャージャー」と呼ばれるものです。
ターボチャージャーが排気ガスの流れを利用して空気を圧縮するのに対し、スーパーチャージャーはエンジンの力を直接ベルトなどを介して取り入れ、その力でコンプレッサーを回して空気を圧縮します。
排気ガスが十分に出てくるのを待たなくても良いため、いわゆる「ターボラグ」がないのがメリットですが、ターボチャージャーに比べて高回転域での出力が低くなるというデメリットがあります。
ターボチャージャーのメリット・デメリット
ターボチャージャーのメリット
ターボチャージャーのメリットはエンジンの効率を高めるという点です。
小排気量でもパワーが出る
ターボチャージャーの最大のメリットは「小排気量のエンジンでも大きなパワーを発揮できる」という点です。
上で解説したとおり、小さな燃焼室であっても圧縮して大量の空気(酸素)を取り入れることができるため、大量の燃料を爆発させることができ、大きな出力を得ることができます。
エンジンが小排気量になればクルマ自体の軽量化にも繋がりますし、自動車税も安くなるなど良い事ずくめです。
エンジンの効率を高めることで燃費の向上をはかることができる
小排気量のエンジンでも大きなパワーを発揮できるということは、同じパワーであれば排気量を小さくできるということにもなります。
この考えにのっとって現在主流となっているのが「ダウンサイジングターボ」です。
排気量を小さくすることやターボチャージャーの部品の工作精度を上げて軽量化することなどによりエンジンの効率を高め、高い燃費効率を実現しています。
ターボチャージャーのデメリット
メリットの多いターボチャージャーですが、その反面デメリットもありました。
ただそのデメリットも近年徐々に解消されつつあります。
ターボラグ問題
排気ガスの「圧」を利用してタービンを回すターボチャージャーでは、排気ガスが大量に発生するまでにある程度の時間がかかってしまいます。
また排気ガスが発生してからも、重さのあるタービンを回し高回転になるまでにはやはり時間がかかります。
アクセルを踏み込んでも十分なパワーを得られるまで時間がかかってしまう。
これが「ターボラグ」と呼ばれる問題です。
またターボラグの後に急にターボが効き始め、いきなり高出力が発生するいわゆる「ドッカンターボ」が問題となったこともありました。
ただこれらの問題はタービンを回すシャフトなどを軽量化したり、排気ガスをタービンに吹き付けるノズル部分の面積を可変にする機構を用いたりするといった工夫で、かなり解消されています。
燃費悪化問題
一昔前はターボといえば「パワーは出るけど燃費が悪くなる」というのが定番でした。
それはターボチャージャーの原動力となる大量の排気ガスを発生させるにはエンジンを「高回転」させてやる必要があったからです。
しかし現在では「直噴エンジン」の普及などにより、低回転域でも十分な燃焼(つまり十分な排気ガスの発生)が実現できます。
また一昔前は4速程度だったATも6段〜10段と多段化し、効率よくエンジンパワーを引き出せるようになったため、無駄にターボチャージャーを働かせる必要がありません。
結果として現在ではターボ=燃費が良いという逆転現象が起こっているのです。
ターボチャージャーの歴史
ターボチャージャーは1905年、スイスの技術者アルフレッド・ビュッヒによって発明されました。
船舶や航空機用として発展
当初はディーゼル機関車の低回転域のトルクを向上させるために活用され、やがて船舶や航空機のエンジンに広く用いられるようになりました。
特に酸素の薄い高高度を移動する航空機にとって大量の空気、つまり酸素を取り入れることができるターボチャージャーはうってつけの機構であり、2度の世界大戦を経て大きく発展したのです。
市販車での成功はBMW「2002ターボ」から
市販のガソリン自動車用ターボチャージャーとしては、1962年にアメリカのGMがオプション設定として市販化しましたが、過給圧が低く、性能的に満足できるものではなかったため、一般化はしませんでした。
市販されたターボチャージャー車として初めて成功したといえるのは、1973年に発売されたBMWの2002ターボ、通称「マルニターボ」です。
戦前から航空機のエンジン製作会社として発展してきたBMWにとって、ターボチャージャーエンジンの製作は得意分野。
圧縮比を6.9:1にまで低くした2L直列4気筒エンジンにKKK社製のターボチャージャーを組み合わせ、170馬力を叩き出しました。
ダウンサイジングターボが主流に
2000年代に入るとそれまでのハイパワーを得るためのターボチャージャーではなく、高効率、高燃費を実現するためにターボチャージャーが用いられるようになってきました。
そこで欧州車を中心に普及してきたのが「ダウンサイジングターボ」です。
排気量を小さくし、不足したパワーをターボチャージャーで補うという考えのダウンサイジングターボは現在ではすっかり主流となり、以前は2L級のエンジンを積んでいたクルマも1.2〜1.5L程度の小排気量のエンジンを積むようになっています。
ターボチャージャー車のパイオニアとしてのBMW
ターボチャージャー車のパイオニアとして、BMWでは1シリーズなどで採用されているダウンサイジングターボだけではなく、Mモデルなどハイパワー車においても高出力のツインパワーターボを搭載しています。
駆けぬける歓びを標榜するBMWのターボチャージャーエンジン。ぜひハンドルを手に取り、そのパワーを感じてみてはいかがでしょうか。